少し前のこと。
お義父さんが亡くなりました。
もともと心臓が悪かったり糖尿病があったりしていつも「しんどいわ~」と言っていたお義父さん。
いつもと違う症状があり、病院に行ったときには、すでに余命わずかと判断できる状況でした。
余命を医師から伝えられたわけではありません。
夫から義父の病名や病状が伝えられ、私が過去に医療職に携わった経験から、早くてあと1~2か月かもしれないと判断。
「GWは帰省するのか?」
と聞く夫に、
「GWまで(命が)持たないかもしれない。
子どもたちを連れて春休みに帰省します。」
と説明し、春休み中に急遽帰りました。
私と子どもたちはPCR検査で陰性を確認してから。
ドラッグストアで簡単に手に入るようになりました。
ここ数年、コロナ対応にご尽力されてきたすべてのみなさまに感謝申し上げます。
というのも、
義父は「また元気になるんだ」と抗がん剤を投与し、セカンドオピニオンを探して受診しようとしていたから。
抗がん剤を投与しているということは、その副作用で白血球が減少し、ウイルスや病原菌に感染すると悪化する状況に陥っていると想定。
食事ができていないという話を聞いていたので、栄養状態も悪化している可能性がある。
もし義父がコロナに感染したら命をさらに短くしてしまう。
そう考えて、私たちができる限りの感染対策を施しての帰省となりました。
(想定していた通り、義父は自宅内で家族と過ごすときも常にマスクを着用しておりました。主治医から感染のリスクを考えてマスクを着用するように言われたそうです)
会話をしたり、
ベッドから起き上がることはできるものの、
ひどい嘔気・食欲不振に見舞われ食事がままならず。
横になったり、いすに座ったり、自分の楽になる姿勢を探して頻繁に態勢を変え、身の置き所のない様子。
本当にしんどそうでした。
日帰りの短い時間でしたが、
義父の顔をみて話すことができました。
それが義父との生前最後の対面となりました。
夫は、春休みに帰省することを急遽決めたとき
「今まであれだけ言っても帰省しなかったのに」
「春休みじゃなくてGWなら連泊できるのに」
とかなり不満をもらしていました。
帰省した日も私に向かって
「日帰りじゃないとダメなんでしょ」
「みんなでご飯を食べるのもダメなんでしょ」
「一泊するのもダメなんでしょ」
と、”私のこだわりが強いから”と含ませながら発言。
私は慎重すぎるかもしれませんが、
抗がん剤投与をして且つ低栄養になっている人と一緒に食卓を囲む気にはなれませんでした。
感染させやしないかと怖すぎて。
10数年前。
私の母は、持病の悪化でベッドから離れて生活することが難しかったのですが、そんな母を見て夫は
「どうして日中ずっとベッドにいるのか」
「暇じゃないのか」
と私に話してきたんです。
病気で体がしんどいからだよ
動きたくても動けないんだよ
と説明しても、夫は意味がわからないという様子だったのです。
そして、夫はあるテレビの番組に影響を受けて
「早く5類にすればいいのに。
日本政府は遅い。」
と批判ばかり言っていて、
「2類から5類に変えればすべてOKなわけではない。
私や私の母みたいに持病があって感染したら重症化するリスクが高い人がいる。
そういう人を守る意味もある。」
と何度説明しても、批判を続けていました。
それが、今回、自分の父親のしんどい様子を目の当たりにして、ようやく、私の母がベッドから起き上がってこれなかった状況を理解できた。
そして、
「病院にはあなたの父親のように抗がん剤治療をして感染症対策が必要な人がたくさんいる。
コロナに感染するとすぐに重症化してしまう病気の人がたくさんいる。
そういう患者さんに絶対に感染させないようにと、医療者はがんばって対応してきた。」
とあらためて説明して、ようやく、ようやく納得した様子でした。
ついでに、私がコロナ感染を恐れて外出や外食に対して慎重だったこともわずかながら理解を示すようになりました。
この人(夫)は自分が経験していないことは「存在しない事象」だと捉えている人だなと薄々思っていたけど、やっぱりそうだったんだと確信。
お義父さんの病は、夫に新たな視点をもたらしてくれたのではないかと思います。
義父からの最後の教えだったのではないでしょうか。
* * *
自分が実際にその立場になってみないと理解できないというのは、夫に限らず、誰にでもあること。
たかだか40数年日本で生きてきた経験だけでできている私の思考回路。
自分の意見が正しいと考えるのは浅はかで。
自分の考えを押し付けることや、
ましてや自分の考えと違う人を批判することはあってはならず。
ああ、考えが違うんだなと一旦受け止める。
その人の視点を想像する努力をする。
その考えはアリなんだろうかと思い巡らせる。
ちがいがある上で共生する道を探る、
あるいはそれぞれちがう道を行く。
人と暮らすには、そういう思考が必要なのでしょう。
まだまだ未熟な私たち夫婦。
義父が安心して天国で過ごせるように、自分の在り方を見直していきたいと思いました。
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